世界最大のムーブメントメーカー“ETA/エタ”を紐解く【後編】

世界最大のムーブメントメーカー“ETA/エタ”を紐解く【後編】

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今回はスイス最大のエボーシュ“ETA”の歴史についてご紹介しましょう。

皆様が抱く“ETA/エタ”に対するイメージがいい意味でひっくり返るかと思います。

多少長編になりますので【前編】【後編】に分けてご紹介していきます。

是非前編と合わせてご覧ください ↓

 世界最大のムーブメントメーカー"ETA/エタ”を紐解く【前編】

 

■セイコーがもたらした時計産業の危機

1969年にセイコーが発表した世界初のクオーツ時計(製造は現セイコーエプソン)は、世界を驚嘆させました。

しかし、その後セイコーが特許を公開し、世界中の時計メーカーがクオーツ時計の開発を始めると、クオーツ時計の低価格化は恐ろしいスピードで進み、これによりスイスの機械式時計は販売数、生産数ともに激減。

この出来事は後に『クォーツショック』と呼ばれます。

1970年には80%を誇っていた世界におけるスイス時計のシェアは、1983年には15%まで低迷。
特にアメリカの時計産業は全滅と言ってもいい状況まで追い込まれました。

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ちなみに、アメリカ発祥のハミルトンは1969年に米・ランカスターの工房を閉鎖しスイスに拠点を移しているのですが、これがあと数年遅かったら…と考えると同社の決定は英断だったと言えそうです。

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■生き残るための合併吸収

さて、こういった流れを受け、クオーツの開発と共に自動巻機構の開発をいち早く手掛けた「ETA」は、エボーシュSAの中でも影響力を高め、1969年に同エボーシュSAの「フェルサ」を吸収。
1979年には「シルト」と合併を果たします。

同時期、“ASUAG”の累積損失は1億5,000万スイスフランを超え、“SSIH”にいたっては崩壊の危機に瀕していました。この対策として、各グループが合併を模索し始めます。

そして1982年、「ETA」「フォンテンメロン」「クオーツ式時計の機械製造を担当するEEM」が新たに“ETA”として統合。
エボーシュSAの企業は“ETA”に吸収合併されることとなりました。

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こうしてスイスでもっとも強大なムーブメント製造会社となった“ETA”、“SSIH”、“ASUAG”、そして新しいコンセプトの腕時計「スウォッチ」で人気を博していた“スウォッチ”が合併し“SMH”という巨大グループが誕生。
これが現在の“スウォッチグループ”となります。

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■世界で最も信頼されるムーブメント『ETA』

こうして世界最大の時計製造グループの一員となった“ETA”は、世界で最も信頼されるムーブメント製造メーカーとして、ありとあらゆるブランドに搭載されてきました。

オメガ、IWC、パネライ、ブライトリング、フランクミュラー、ロンジン、ハミルトン、ティソ、オリス、ジン、カルティエ、モンブラン、ボールウォッチ、ボーム&メルシエシャネル、ルイ・ヴィトン・・・等々、90年代にはスイス時計の8割に搭載されるほどのシェアを獲得しました。

しかし、そんなETAも2020年をもって同グループ(ブレゲ、オメガ、グラスヒュッテオリジナル、ジャケドロー、ハミルトン、ティソ、ラドー、ミドー等)以外には、部品供給を行わないことを発表し、これが決定。

これを「ETA問題」と言いますが、この説明はいつか詳しくお話しします。

■まとめ~ハミルトンとETA

なかなか長くなりましたが・・・
まとめるのであれば“ETA”というのは、スイス時計業界を代表するムーブメント製造のプロフェッショナル企業の技術や歴史が集結した素晴らしいムーブメントメーカーであるという事です。

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1793年のフォンテンメロン創業から、ヴィーナス、バルジュー、プゾー、ユニタスといった名だたるムーブメント製造企業の歴史と偉業を背負い、新たな挑戦をし続ける“ETA”が、世界で最も優れたムーブメントメーカーであることはまぎれもない事実です。

そして、そのETAのムーブメントを搭載、さらには自社での開発にも成功したハミルトン。
この2つの関係性は、両者を語る上では切っても切れない関係と言えます。

世界中でETAのムーブメントは高性能でメンテナンスもしやすいと評価を得ています。
その一方で、量産性の高いモノを低く評価する人もいます。
ETAの歴史と技術を知って頂ければ、次に買う時計はETAムーブメントも有りだなと、思って頂けるのではないのでしょうか。

前編の冒頭でお話しした「マニュファクチュール」は、量産性が低い代わりに、メンテナンスにそれなりの費用と時間を覚悟しなければなりません。

因みにハミルトンの正規メンテナンスでは、ブレゲやオメガ等を修理する技師と設備で修理を行っております。

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いかがでしたでしょうか。
今お持ちの時計のムーブメント、これから手にされる時計のムーブメント。ぜひどんなムーブメントなのか調べてみてください。その機械がどのように開発され、どういった歴史を歩んだのか…。

意外と知られていない「腕時計の中のお話」でした。
全てに物語がある。だから時計は楽しい!

ETA製が安定性、価格、メンテナンス性だけでなく、スイス時計の歴史そのものを体現していることが少しでもこの記事を読んでいただいた皆様に伝わっていれば幸いです。

 

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